出血量の多さを「個人差」と考え、子宮筋腫に気づかなかったケース
32歳。月経のたびに多量の出血があり、昼でも夜用ナプキンが必要で、夜には夜用ナプキンを何回も交換する必要があるほど。そのため月経中は、旅行はもちろん外出も控えるような状況だったが、これは「個人差」で大きな問題ではないと考えていた。
息切れがして階段を登るのも辛くなることがあり、内科で貧血と診断されたこともあった。そのとき「生理の量が多くないか?」「子宮筋腫があると言われていないか?」聞かれたが、2年毎に受診している子宮頸がん検診で何も言われていないので「ない」と答えた。出血も多くないと思っていた。結局、内科で貧血は処方された鉄剤を飲めば治っていたので、これでよいと考えていた。
しかし、今回は多量の出血が10日たっても止まらないため、心配になって産婦人科を受診。超音波検査で子宮筋腫が見つかり、月経量が多かったのは筋腫のためだったと判明した。
子宮筋腫があるかどうか自覚症状でわかるの?
まず大事なのは、筋腫があっても、ほとんどの人は何も起こりません。超音波検査などが無かった頃には、筋腫があることに気づかずに一生を終える人も多かった、そういう「病気」です。また、筋腫などがなくても過多月経になる人もいることも覚えておきましょう。
このケースのように、月経のたびに日常生活が制限されるような出血があるような場合、早めに婦人科を受診しましょう。原因がなんであろうとも、出血を抑えることができます。多量の出血を放置した結果、緊急入院や輸血が必要になる場合もあるので、そうなる前に対処しておいたほうがよいです。
子宮筋腫を早く見つけると何がよいのか
子宮筋腫は不妊や流産、早産など、妊娠・出産に悪影響を与える場合があります。
筋腫が見つかったのが妊娠前であれば、筋腫をそのままにして妊娠を目指すのか、治療をしてから妊娠したほうがよいのか検討し対処することができます。しかし、妊娠してから筋腫が見つかった場合には、ゆっくり調べたりよく考えたりする時間がないままに、さまざまな判断をしなくてはいけなくなることもあります。
上のケースのように、何も症状がなくても大きな筋腫がある人もいますから、妊娠を考えている人は婦人科で検査しておきましょう。
また、子宮頸がん検診を受けていれば子宮や卵巣もチェックされていると考えている人もいますが、それは間違いです。5cmくらいの筋腫では超音波検査をしなければわかりませんが、検診の時に超音波検査をすることは必須とはされていません。
一方で、過多月経や頻尿、腹部の膨隆など、自分の生活を圧迫するような自覚症状がなければ、子宮筋腫があっても何もする必要はありません。妊娠出産する時期が過ぎていれば、無症状の子宮筋腫を見つけてもほとんど意味はありません。むやみに怖がることはありません。腰痛の原因が子宮筋腫であることもほとんどありません。
「治療か経過観察か」「手術するかしないか」、いくつか選択肢がある
子宮筋腫が見つかった場合、治療方針を決める上でいくつかの選択肢があります。
(1)治療が必要か、このまま様子を見てもよいか
出血が多いなどの症状がなく、今後の妊娠・出産などに影響する可能性が低い場合は、そのまま様子を見ます。定期的に婦人科で大きさなどを評価することになります。
(2)治療が必要な場合、手術をするか、しないか
筋腫のできている場所、出血量、今後の妊娠の可能性などを考えて、手術が有利か、ホルモン治療薬などで対応できるのかを判断します。
(3)手術の場合、子宮全摘(子宮を全部取る)か、筋腫核出(筋腫のみ取る)か
この判断は重要です。利点と欠点を天秤にかけて比較して判断するのがよいでしょう。一方の利点は、もう一方の欠点です。
【子宮全摘術の利点】
- 筋腫の再発がなく、再手術がない
- 子宮がん検診が不要。子宮頸がんと子宮体がんの発生はゼロ
- 月経出血がなくなる(閉経ではありません。卵巣を残せば、そこからホルモンは出ます)
【筋腫核出術の利点】
- 妊娠・出産が可能
- 月経があるため、女性であることを実感できる(という人もいる)
子宮全摘をしても卵巣を残せば、女性ホルモンに変化はありません。月経の出血がないことは閉経とは違います。ただし、間もなく更年期になる時期に手術が重なると、術後に更年期症状が出ることはあります。
各方法の利点と欠点をよく理解し、納得のいく治療を
子宮筋腫の治療にはこのほか、子宮動脈塞栓術(UAE)、子宮内膜焼灼術(MEA)などもあります。UAEは子宮に栄養を送っている血管に詰め物をして「兵糧責め」にし、筋腫を小さくするものです。傷も残らず、痛みもあまり強くない上に、短期間の入院ですみますが、治療効果が確実でないこととその後の妊娠出産が勧められないことが欠点です。MEAは経腟的に(お腹に穴を開けずに)子宮の内側を焼いて、内膜が増えないようにしてしまって、出血をさせなくすることです。手術の負担は少ないですが、一定期間が経つと元に戻ってしまったりします。
以上のものだけではなく、子宮筋腫の治療にはさまざま方法があります。それぞれの利点と欠点をよく理解したうえで、納得のいく方法を選択してください。
いずれにしても、妊娠前なら子宮筋腫を早めに見つけておくことで有利に対応できます。出血量が多い人は子宮筋腫を疑って、早めに婦人科でチェックをしましょう。何事もバタバタしないで対応するのがよいですよね。一方で、妊娠出産が終わっていれば、無症状の子宮筋腫を見つける利益は少ないです。
子宮筋腫は、それを見つけることが目的ではなく、トラブル無く生活が送れることが目的です。自覚症状がある人は一回婦人科を受診して検査してみましょう。